「階段」
長い苦難と試練の果てに、冒険者は最後の財宝にたどり着いた。
後は見上げるばかりの階段を登るだけ。
意を決して階段に足を踏みかけた時、頭上から声が響いた。
「この階段は登る者の寿命を一段につき一年、その者が死ぬまで奪うであろう」
冒険者はうろたえもせずこう切り替えした。
「この階段のせい死んだら地獄に落ちるのか?」
「そんな事はない。もちろんお前が今まで悪事ばかりして来たというなら話は別だが」
「そうか」
すると冒険者は淡々と階段を登り始めた。
「話を聞いていなかったのか?そのまま登り続ければお前は死んでしまうのだぞ」
「私は放蕩者であっても悪人ではなかった。だが、この先生きてゆく中で、悪人になって地獄に落ちるかもしれない。それならば、今いっそこの寿命が尽きて天国へ行くか、生きているわずかな間でもあの財宝を手にする方がいい」
一歩一歩顔に皺を刻ませながら、冒険者は財宝に近づいて行く。
「変わり者め。天国はもう一杯なのだ。お前のような者を入れる席など勿体無いわ」
そう言い残すと頭上からの声は消えてなくなり、階段を登るごとに感じていた脱力感はなくなった。
冒険者は何食わぬ顔で階段を登りきり、求めて来た財宝に接吻をするのであった。
「秘密」
廃れたアーケード街を抜け裏路地に入ると、そこには連日買い物客で行列が賑わう噂の肉屋がある。
人気の秘密は、滴る脂肪をつけた極上の霜降り。
ブランド牛豚引け取らぬその不思議な味わいは、一度食べたものを虜にして離さない魅力があり、しかも格段に値段が安いともなれば、誰もが買い求めるだろう。
だが、この店には誰もが知っていて、知らない事がある。
こんなに美味しい肉を、どこから仕入れているのか。
こんなに美味しい肉が、どうしてここまで安いのか。
連日並ぶ買い物客が、日ごとに一人また一人消えていくのを咎めてはいけない。
そして、時々店の裏に平日休日問わず隠れてゴミ収集車がやってくる事を知っている者が居ても、何も話してはいけない。
行列が短くなるのだ。
あの何とも言えない肉の味を、誰に阻まれるとなく今夜は存分に味わえるのだ。
それ以上に大切な事があるだろうか。
この店の店長には買い物客に内緒にしている事がある。
だがそれは、誰もが知っていて誰もが知らない、公然の秘密なのだ。
「少年」
小学生の頃、大人になるのはまだまだ先だと思っていた。
中学生になった頃、大人になる為に通らなければならない道を考えていた。
高校生になった時、大人になどなりたくはなかったが、お前は大人になるのだと背中を押す声が聞こえていた。
大学生にもなると、自分はもう大人になったのかなと漠然と感じていた。
社会に追い出されると、毎日の生活と多忙な仕事に追われ、考える事をやめてしまった。
やがて誰かを愛する事を知った時、自分は大人になってもいいのではないかと思うようになった。
そして子供が生まれたことで、自分はとっくの昔に大人だった事を知った。
月日が流れ、自分の体重に疲労を感じた時、唐突に離婚の話を持ち出された。
全ての責任から開放された事で、これでも自分は大人なのだろうかと疑問を持つ事になる。
病室のベットの上で、独り空を眺める孤独を噛み締めた時、老人はまだ自分は少年なのではないかと思い知った。
前回小説っぽいものを書いたおり、
【10分で読める小説大賞】というページを見つけたので、その中の題材から散歩中に思いついた話を推敲もせず書いてみました。
テーマを前面に出すという厚顔っぷりに加え、内容が無いような物も、どっかで聞いたようなブラックな話も、全てが自分の拙さとして表れていて何とも言えません。
でもまぁ、こう言った短い話は考えていてとても楽しいので、機会があったら書いていきたいですね。
昔星新一を読んだ時、あれだけの文字数の中に、こんなにも物語を詰め込む事ができるのかと感動した事があります。ショートショートは憧れではありますが、少ない文字で読み手に想像力を書き立てるような文を書くの難しいですね。
長々したプロットを考えなくてもいいのは精神的にいいものでしたが、読み返して見ると全部200字もないような…まぁ、イイカー。